モチベーション
前に書いた記事でテクニカルリクルーターという仕事が、日本ではまだ一般的ではないものの、あるということを知りました。主にアメリカの技術系人材の採用活動において使われるタームのようですね。ソフトウェアエンジニアに限らず技術系の職種の人って将来に対する不安があったり職場の人間関係がうまくいかなかったり、引くて数多のように見えて意外と現状に満足行っていない人も多いんだなあと感じることがたまにあります。それに技術系の人たちは主に理系出身(そうでない方もいますが)が多くこれまで真面目にたくさんのことを学んできてそこにリソースを割いてきたため、他者とのコミュニケーションが得意でなかったり積極でない人も多かったりするのです。せっかくこれまで沢山のことを学んできたのに自分の能力を活かせないことは不幸なことですし、何より僕としては何もわかっていない(そして頭の悪い、そうでない方もたくさんいると思いますが)転職エージェントに適当に扱われて変な仕事をあてがわれるのが正直我慢ができないくらい嫌だ、と思っています。僕もたまに勤めている会社の採用活動を手伝ったりするのですが、求人媒体のライターにインタビューを受けた時に適当な記事を書かれてネット上にアップされた時は本当に嫌でした。僕はずっと採用の仕事に興味があって少しずつその経験を積んだりしながら機会を伺っていてこのブログもそのための試みのひとつなのですが、本当はもっと価値があるのに相手や環境によってそれが貶められるのではなく、よりエンパワーできるような仕事ができたらいいなあと思っています。割と自分がしたい動きの特徴が、テクニカルリクルーターの仕事と似ていたので取り上げてみることにしました。
テクニカルリクルーティングとは
情報収集しながらテクニカルリクルーティングとは何なのかを整理してみたのですが、おおまかにその仕事内容を分類すると、技術者の採用戦略サポート、技術者へのアプローチとコミュニティづくり、採用プロセスのサポート、採用後のサポートの4項目になるのかなと思います。
技術者の採用戦略サポート
採用戦略のサポートとしては、採用ポジションの要件定義とターゲットの明確化、採用チャネルの選定と運用、システムの導入・運用、採用のための企業のブランディングなどが挙げられます。
採用ポジションの要件定義をするためには業務の内容への理解とその業務を担う技術についての知識・理解が必要で、ソフトウェア開発においては例えばどのような言語でどのようなフレームワークや開発環境を使っていて、どのように開発されていてそれはどんなチームによって運用されているのかなど経験や知識に基づく洞察が必要で、その採用要件から逆算してどのようなバックグラウンドの人材がその戦力となりうるか、現状で同じ職種を経験しているかだけでなくどのようなスキル・知識・経験があれば戦力になり得る可能性が高いかなど総合的にプランニング・判断をしていくことが必要となります。
採用チャネルについてですが、求人サイト・SNS・技術者のネットワーク(紹介やオフラインイベント)・技術者カンファレンス・大学のキャリアイベントなど多様なチャネルが存在する中で採用したい人材がどのチャネルを経由すれば一番効率的に獲得できるかをシビアに考えなければなりません。なぜなら、採用チームは予算も人員も潤沢にあるわけではなくできることが限られている反面、業者に頼めば高い費用を請求されることが多く自前のメディア運用やイベント実施はとんでもない労力を伴います。色々なことに取り組んで仕事した感を出すのは簡単ですが、それは人事担当のオナニーでしかないことが多い気がします。
人事採用業務においてもDX化は進んでいて様々なツールが使用されます。ATSや求人の配信プラットフォームを組み合わせて、効率的にターゲットとなり得る技術者にリーチしていくことは重要ですし、候補者の管理はシステムに頼った方が楽です。僕はあまり詳しくないのですがHR Techという領域もありますしね。ただし、システムを導入することに伴いトレーニング・教育が多少発生することは避けられないので良い運用方法を考えることが必要です。
技術者にとってここで働いてみたいと思わせるようなブランディングも重要ですね。オープンソースプロジェクトへの貢献やスポンサードもそうですし、技術系の記事の発信もちゃんと質の高いものを外部の開発者に提供できれば、技術者から開発に対してちゃんと取り組んでいる会社なんだなと思ってもらえることも多いです。Webサイトのソースをスクレイピングしてサイトのセキュリティホールを探しているようなバグハンターに向けて、ソースの中にWe’re Hiring!!みたいなメッセージを入れている会社もありますよね。あれも採用のためのブランディングの一環に位置付けされて良いと思います。
技術者へのアプローチとコミュニティづくり
テクニカルリクルーターが技術者にアプローチするには、まずターゲットの要件を決めて可能であれば候補者をリストアップするところから始まります。次に、ターゲットに接近するためにどんな方法を取るか選択します。海外ですとLinkedInがメインだったりすると思うのですが、日本は興味や関心を軸にコミュニティが形成されていくことが多いためXでのアプローチが一般的なのではないでしょうか。また、OSSのプロジェクトに参加したり、勉強会などのオフラインイベントに参加することでターゲットとなる技術者にアプローチできるかもしれません。そして彼らが興味をそそるようなメッセージを送り彼らとのコンタクトを確立し、情報共有やディスカッション、オフラインでの顔合わせなどを経て企業の選考プロセスに参加してもらいます。ただし、物事はそんなに単純ではなく、テクニカルリクルーター自身に中身がないと技術者からの信頼を勝ち取ることは難しいと思うので、自らの専門分野についての情報提供を日頃から行なっていたり、勉強会で誰かの役にたつプレゼンテーションをしたり、OSSプロジェクトにちゃんと貢献する、という日頃の行いが重要なのはいうまでもありません。
恒常的にターゲットとなり得る技術者たちと自らのコミュニティを構築しておくのが理想的なのかなと思います。そのためには日頃からオンラインコミュニティにおいて他者に貢献できたら良いのではないでしょうか。ある有名なソフトウェアエンジニアはOSS活動において、率先して他のOSSに参加しているメンバーのコミットに対してレビューを行なって議論に参加していくことで他のメンバーから重宝され、コミュニティ内での立場を確立していったなんて話もありますから、テクニカルリクルーターもそういう動きを真似してみてうまく周りの役に立てる方法を模索することが重要そうです。あとは、他者からそのテクニカルリクルーター自身が何やっているかわからない人ではなく、あの人は○○の人だよねと認識してもらえるとちゃんと話を聞いてもらえる可能性が上がるので、自分が常日頃研究していて他者の役に立てる情報を技術系のブログに投稿したり、勉強会やカンファレンスで発表できるようになると自身のブランディングにもなりコミュニティが形成しやすくなりそうです。
採用プロセスのサポート
求人広告の作成や配信などもそうですが、テクニカルリクルーターが採用プロセスで活躍できそうなのが候補者のスクリーニングなのではと思います。自分がソフトウェアエンジニアでまわりにたくさんのソフトウェアエンジニアがいると経歴や職務経歴書などに記載されているスキルなどからその候補者がどんなことが得意で業務にフィットしそうかどうかなど様々なことが類推できるようになります。また、面接において業務から逆算した粒度の細かい評価項目を設定できるので、そのチートシートに当てはめて候補者を分析することで実際に面接をするソフトウェアエンジニア達に対して事前の情報を申し送りすることが可能です。現場のソフトウェアエンジニアたちは様々なやるべき業務があって忙しいですから、彼らの代わりにあらかじめ候補者をスクリーニングしておくことは非常に重要です。また、様々な採用プロセスの管理も重要です。前述の通り、評価項目を細かく設定できればこの面接ではこの部分をチェックして別の面接ではここをチェックしてください、という面接の適切なステップ分けが可能です。ソフトウェアエンジニアの基本的なスキル(あくまで基本的なものに限定されますが)を計るためにコーディングのテストを受けてもらうことがありますが、問題はコーディングテストのサービスを使うとしてもどのような項目をテストするのかというプランニングは重要です。
採用後のサポート
技術者を採用した後も、彼らの気持ちに沿ってオファーの詳細や条件についてしっかりと説明することが重要です。また、必要に応じてオンボーディング研修などの計画・運用を担うこともたまにあります。
書籍について
How To Become A Technical Recruiterという英語の書籍を読んでみたのですが、テクニカルリクルーターの業務マニュアルみたいな表現がしっくりきました。20以上のソフトウェアエンジニアの職種の定義に始まり、ソフトウェアエンジニアの候補者の探し方、タレントマッピング計画の作り方、レジメ・電話などによる候補者のスクリーニングにおいてのTIPS、人材ソーシングのためのツールの紹介、メッセージの送信におけるベストプラクティスなどを紹介しています。実を言うとそんなにいい情報はなかったのですが、タレントマッピングや人材ソーシングのためのツールなど少し調べてみたいテーマも見つかったのでこの2つのテーマについてフォーカスしてみようと思います。
タレントマッピング計画について
タレントマッピングって何だろうと思い、英語の記事を検索してみたのですが、一番しっくりくるものを見つけたのまずはリンクを共有します。
https://www.aihr.com/blog/talent-mapping/
人材のマッピングと言ったら身も蓋もないのですが、その目的として、重要または希少なスキルを持った人材が現在どれくらい存在するのかちゃんと理解すること、また企業の様々な目的に即した人材採用のための判断材料となるインサイトをちゃんと使いこなすこと、その2点が挙げられます。どんな軸でマッピングするかというと、記事では2種類のマッピング軸が紹介されていました。1つ目は重要性×希少性、もう1つは資質×パフォーマンスです。重要性×希少性のマッピングでは4象限に分類されていて、A. High Impact Target、C. High Impact Replacement、D. Mass Market、B. Scarce non-criticalの4つに分類されます。採用するチーム毎にこの4象限のプロファイリングを整理すると良さそうです。資質×パフォーマンスでは、実に9象限に分類されます。Stars、High Potentials、Enigmas、High Performances、Core Players、Up or Out Dlemmas、Workhorses、Up or Out Grinders、Bad Hiresの9象限となり、何となくそういうラベリングはしてましたが、ちゃんと網羅して分類するのに便利そうだなという印象です。
SNSやオフラインイベントなどでコンタクトを得たターゲット候補たちを、こうしてマッピングして優先順位付けしながらアプローチしていくのは割と機能しそうな運用サイクルだなと思いました。
ツールについて
タレントソーシングツールという言葉をご存知でしょうか?アクティブに職を探しているわけではない技術者にアプローチするために、様々なネット上の情報から候補者をリストアップしてスクリーニングしていく必要がありますが、データが膨大すぎてコンピューターの力を借りないとリクルーターの仕事が追いつきません。書籍の中で紹介されていたタレントソーシングツールについて言及していこうと思います。
DeveloperDB
3000万人の技術系人材のデータベースにアクセスでき、普通のSNSでは到底アクセスできないような人材とのコンタクトを発見することが可能です。ただしデータのソースがトラディショナルなものが多く情報が古い可能性があるのが難点です。
Hireflow.ai
SNSやGithubのような技術系のプラットフォームの閲覧において、AIを使ったChrome拡張ツールによって、ターゲットの採用につながる情報をサジェストしてくれます。またメール送信を簡単にしてくれる機能やCRM機能もあり、リクルーターの仕事効率を飛躍的に向上させてくれます。
Seamless.ai
こちらはタレントマッピングツールというわけではありませんが、営業活動において必要なコンタクトをAIが見つけ出してくれて爆速でリスト化してくれるツールです。10万以上の営業チームが使用している便利ツールとのこと。
DNNae
DNNaeは人材採用のオートメーションツールで、採用したい人材の条件をAIが学習し膨大なSNSデータからコンタクトを抽出してくれるサービスでChrome拡張ツールなどでも使えます。また、リストアップした人材をAIが評価して、会社や部署から見た重要度別にマッピングしてくれる機能もあるそうです。
HireEZ
こちらもChrome拡張を使ったツールですね。Chrome拡張でサイトのデータを読み込み、AIが自社の採用要件にマッチするコンタクトを抽出し、リストアップして、さらに評価してデータベース化してくれます。そのデータを元にコンタクトとのやり取りをトラッキングしてくれるCRM機能と併せて、採用業務を高速化してくれます。
ツールを調べていて感じたのは業界を問わず、使いやすいUIとAIを組み合わせることで、仕事を自動化して効率をがっつり上げてくれるサービスが増えていますね。自分の技術の知見と最新のツールを組み合わせることで、これまでとは違った働き方がどんどん出現しているのが印象的でした。日本でも海外の後追いで様々なツールが出現してくると思うので、テクニカルリクルーターやその仕事を助けるツール達について注視していこうと思います。